私は古美術も、近現代の美術も年代問わず興味があり、数年前から浮世絵にも興味が湧いて関連本を読んだり、実際に見に行ったりして楽しんでいるのですが、浮世絵は面白い絵画のジャンルだな、と改めて思いました。というのも、すみだ北斎美術館(美術館)、大英博物館プレゼンンツ 北斎(映画)、北斎と広重 冨嶽三十六景と東海道五十三次(美術館)、眩(くらら)~北斎の娘(NHKのドラマ)、など葛飾北斎に触れる機会が重なったので、今日は北斎先生の『富嶽三十六景』全46図中の1図「凱風快晴(通称 赤富士)」をモチーフに、本物についてと美術の見方について書いていきたいと思います。
この絵は木版画で、肉筆浮世絵とは違うことがまず大きなポイント。肉筆浮世絵は筆で描かれた一点物。片や木版画は版画なので、大量印刷をすることができ多くの「本物」が存在します。通常は初摺(しょずり)と言われる最初に摺った200枚は、絵師の指示通りに刷られるそうですが、その後に摺られた後摺(あとずり)は、摺師(摺る専門の人)に一任されるとのこと。
現代でもこの「赤富士」は大人気ですが、時代を超えて人気があるようで江戸時代でもとても売れ行きがよく、一説によると一番多く摺られた浮世絵とも言われています。
ということは、多くの「本物」が存在するこの「赤富士」ですが、これは木版画なのでたくさん摺っていると、木はすり減るので線が変わってしまい、絵も変わって見えます。また、人気のものだと急いで摺りたいので、繊細なぼかしの版は摺らずに工程を減らす時もあったり、それから後摺(あとずり)は絵師の指示は入らないので、摺師の好みの色合いになったり、はたまた売れ行きがよかった色合いをたくさん摺ったり、と、数が多くなればなるほど様々な「本物」が生まれることになるのです。