ブルーノ・タウト「熱海の家」- 3 –

※画像はブルーノ・タウト「熱海の家」(旧日向別邸)からの景色

今日はブルーノ・タウト「熱海の家」 1 / ブルーノ・タウト「熱海の家」 2 の番外編。

前回のブログで、タウトの熱海の家(旧日向邸)を見学するときに、ボランティアのガイドさんがとても丁寧に教えてくださることも紹介したのですが、今日はそのガイドさんが教えてくれた素晴らしい学びを紹介します。

桂離宮、伊勢神宮、白川郷などに美を見出し、数寄屋造にインスパイアされ、著書を発表して世界にその素晴らしさを発信したタウトですが、日本建築のどういうところがそんなにも魅力なのか、というお話です。

ひとつめは、その<地味さ>
桂離宮は別荘、伊勢神宮は宗教施設にも関わらず、質素でシンプル。余計なものはなく、自然素材を活かしその色合いも控えめです。片や、西洋の別荘や宗教施設は豪華絢爛で派手なもので日本のそれとは正反対。建物は日本は地味、西洋は派手なのですが、衣服はどうでしょうか?かつての日本の衣服と言えば着物です。そう、とても華やかです。上流階級の人ほど色彩はより鮮やかに、何層にも重ねて着飾り、髪型も大きく派手になります。そして西洋の衣服と言えばドレスですが、中世貴族などは以外と地味です。色合いは落ち着いていてシックなものが多いです。

日本は地味な空間に、華やかな衣服が映える文化。そして、西洋は華やかな空間だからこそ、落ち着いた衣服がマッチする文化。なるほど、両方とも上手にバランスが取れている。

ふたつめは、<床の間>
最近はアートを購入する人も増えてきたので、それを飾る空間をどうするか?なんて話も聞きますが、日本家屋にはもともと床の間という芸術を楽しむ空間が存在しているのです。すでに南北朝時代からあったそうなので、1330年代には芸術を鑑賞するという概念とその習慣があったということですね。私の実家にも床の間はあります。数十年前には当たり前のように作られていた床の間文化を復活して、掛け軸や陶器、お花のような日本の芸術だけでなく、幅広く好きなアートを楽しむ空間として新しい使い方が広まればいいですね。
※床の間ではないですが、タウト設計の「熱海の家」の客室にもアートを飾るスペースがデザインされています

最後のみっつめは、<縁側>です。
日当たりがよく、のんびりできて落ち着くスペース。ちょっとお話したり、将棋や碁をしたり、猫が昼寝をしていたり、夏にはみんなでスイカを食べたりする場所、というイメージがあります。今まで縁側について考えたことはなかったですが、言われてみるとなんだか不思議なスペースですね。これも日本建築独特なもので、この縁側は内と外をつなぐスペースとして機能しています。内でも外でもない曖昧さが、境界線を明確に作らない、という日本文化を象徴するものなんだとか。

そして、この空間で光源氏が愛を語ったんですよ、と言われると、なるほど。確かに夕陽や月を楽しむ場としては最適だし、この縁側がとてもロマンチックなスペースに思えてきます。「縁」の「側」と書くし(そっちの縁じゃない?)。うむ、色々と納得してしまいます。
ちなみに、建築家の隈研吾さんはこの「熱海の家」を訪れて、タウトはこの地下室空間全てを「縁側」として設計したんじゃないかな、と言ったそうです。なるほどな視点です。

ガイドさんの説明にいちいち「なるほどー!」と言っていた私ですが、こんな風に日本文化を再学習できることもまた楽しいです。

旧日向別邸

ブルーノ・タウト「熱海の家」(旧日向邸)は、2018年の後半から修復工事のため、4年間は公開中止とのことです。愛情たっぷりの熱海市のボランティアガイドの方の説明も楽しいので、是非足を運んでみてください。

<ブルーノ・タウト「熱海の家」 旧日向別邸へのアクセスと情報>
〒413-0005 静岡県熱海市春日町8-37(熱海駅より徒歩約10分)
土日祝のみ10:00・11:00・13:00・14:00・15:00(各回とも予約制)
大人300円・中高生200円・小学生無料(但し保護者同伴)
TEL. 0557-86-6232 (熱海市生涯学習課文化施設室)
※土日祝のみの開館となります。
※完全予約制のため、上記へご予約をお願いします。

熱海市観光協会ウェブサイト
https://www.ataminews.gr.jp/spot/116/

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youseeaandiseeb
Written by youseeaandiseeb
東京在住のグラフィック&デジタルデザイナー。 ものづくり、文化芸術、旅、そしてたまに宇宙についてのブログです。 私の視点を通して、この豊かな世界を紹介していきたいと思います。英語でも書いてます。