緑響く

美しい青緑色の森が広がる世界に、真っ白い馬が小さく描かれた画はどこかで見たことがあると思いますが、「日本人の自然観と心情を写し取った国民的日本画家」東山魁夷の生誕110年ということで、大規模な回顧展が東京の国立新美術館で開催されています。楽しみにしていたこの展示に行ってきましたよ!

横浜に生まれ、東京美術学校を卒業した東山は、昭和8年(1933年)にドイツ留学を果たし、後の画業につながる大きな一歩を踏み出しました。しかしその後、太平洋戦争に召集され、終戦前後に相次いで肉親を失うなど、苦難の時代を過ごしました。どん底にあった東山に活路を与えたのは、自然が発する生命の輝きでした。昭和22年(1947年)に日展で特選を受賞した《残照》の、日没の光に照らされて輝く山岳風景には、当時の東山の心情が色濃く反映しています。

東山の風景画の大きな特色は、初期の代表作《道》(1950年)が早くも示したように、平明な構図と澄んだ色彩にあります。日本のみならず、ヨーロッパを旅して研鑽を積んだ東山は、装飾性を帯びた構図においても自然らしさを失わず、青が印象的な清涼な色彩の力も駆使し、見る者の感情とも響きあう独自の心象風景を探求し続けました。
国立新美術館ウェブサイトより)

上記、展示会の紹介にもあるように、苦難の時代の真逆を描いたような、まばゆく幻想的なそれは美しい世界が広がっていました。

やはり印象的なのは、森や木々を描いたその青緑色。はっと目を引く鮮やかさ、宝石のような神秘的な輝き、濃く深い緑だけれどなぜか透明感があり、ずっと見ていられる不思議な魅力があり、その世界に惹き込まれてしまいます。あぁ、うっとり。

それから、繊細なグラデーションで描かれた自然の風景。森の木々を描いた緑色、紅葉を描いた赤やオレンジ、桜を描いた桜色…遠くから見ると同じ色のグループがまとまったものとして見えますが、層を重ね、濃淡で表現し、同じ色の中での光と影がとても丁寧に描かれていて、美しさと優しさ、自然への深い愛情を感じます。

更に作品タイトルもとっても素敵。シンプルですが美しい日本語の数々。

《残照》
《緑響く》
《秋翳》
《映象》
《冬華》
《月篁》
《花明り》
《山雲》
《濤声》
《月宵》
《彩林》
《光昏》
《木霊》
《青響》
《黄輝》
《白暮》
《春静》
《秋寂び》
《夕星》

初めて見る言葉もありますが、情景は想像でき、どれも静かで穏やかで少し神秘的なものを思い浮かべることができるかと思います(実際、タイトルは作品をよく現していて、タイトルも作品の重要なピースになっていると思います)。

小さいサイズの作品もありましたが、やはり目に入るのは大きなもの。青緑色が一面に描かれた大きな作品を目の前にすると、不思議な世界に惹き込まれて時間を忘れてしまいます。あぁ、うっとり。

特に今回は音楽を聴きながら観ていたので、その影響もあるかもしれません。私は話し声などが気になってしまうので、人が多い時には音楽を聴きながら観ることがあるのですが、絵画鑑賞にピッタリなのが阿部海太郎さんの「Cahier de musique / 音楽手帖」。

NHKのテレビ番組(「世界で一番美しい瞬間(とき)」「京都人の密かな愉しみ」「日曜美術館」「ふれなばおちん」)のために書き下ろした楽曲を1枚のアルバムにまとめた作品です。特に、「世界で一番美しい瞬間(とき)」の音楽は素晴らしくて絵画鑑賞にもってこいです。(この曲のタイトルも音楽も合っているし)

好きな音楽で好きな絵画を堪能する。贅沢な時間を過ごすことができました。あぁ、うっとり。

大人気の展示で混雑していましたが、同じ会場で同じ画を観ているけれど、ひとりひとりが違う印象を抱いているんだな、なんてことも考えたりもしました。とっても美しい世界を是非堪能してみてください!

生誕110年 東山魁夷展
2018年10月24日(水)~12月3日(月)
毎週火曜日休館
10:00~18:00
※毎週金・土曜日は 20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

国立新美術館ウェブサイト

阿部海太郎さんの「Cahier de musique / 音楽手帖」

※今日のメイン画像は「緑響く」。長野県信濃美術館 東山魁夷館ウェブサイトより

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Written by youseeaandiseeb
東京在住のグラフィック&デジタルデザイナー。 ものづくり、文化芸術、旅、そしてたまに宇宙についてのブログです。 私の視点を通して、この豊かな世界を紹介していきたいと思います。英語でも書いてます。