一番イイ表情

ワープロやパソコンといった、文字入力ができるコンピューターの登場により、便利になる反面、文字を実際に書く機会は減り、今後もその流れはとどまることがなく、便利さの精度は上がる一方かと思います。でも、実際に文字を書く機会がなくなることはないし、なくなって欲しくないなと思います。

そうは言っても(久しぶりに)文字を書いた時に漢字を忘れていたり、間違えたり、はたまた自分の書いた文字の下手さに愕然とする時もあり、手書き文字といよいよ向き合わないといけないな、と思い始めてかれこれ数年が経ちました…。ペン字の練習帳で練習してみたりしましたが、どうも続かなくて、ついつい便利さの誘惑に負けてしまうのです。

そんな風にもどかしさを感じながら過ごしていたのですが、日本画や浮世絵、絵巻物、古文書なんかの時代ものの展示を見ているうちに「縦書きっていいなぁ」とふと思いました。そして、よし、やってみよう!と思い立ち文房具屋さんに行きました。いきなり筆にするのはハードルが高いので、万年筆を探したところ良品を発見。書き心地も、見た目も、お値段も今の私にはピッタリと思ったものがあったので、購入しました。「プラチナ万年筆 デスクペン 極細 黒軸」です。ペン先の方が重いのでとても書きやすいのです。そして見た目もかっこいいなと思います。

早速、縦書きの文字を書いてみたのですが、これがとてもイイ感じ!サラサラ書けるし、あまり疲れない。それから、しばらく書いていると、漢字は大きく、ひらがなカタカナは一回り小さく、といった具合に全体を見て自然とバランスをとるようになってくるのです。背筋もピンとして、外来語はあまり使わずに、なるべく日本語で表現しよう、という気持ちも湧いてくるから不思議です。そして何と言っても見た目がキレイ!(私の横書き版と比べてですが)。

ちょっと慣れてくると、漢字は適度にくずしたり、下に続くひらがなにつなげようとしたり、文章全体を見た時の大小のバランスによって、何となくそれらしく見えてきます。それから、早く書けるような気がするし、何より書いていて気持ちがいい。どこかで感じたことがあるこの気持ち良さ。何だろう?と考えてみてひらめいたのは、そう、それは英語を横書きで書いた時の気持ちよさに通じる感覚でした。

ここで「なるほどー!」と腑に落ちたのですが、そもそも筆で書く文字として長年書かれてきた日本語は、縦書きが一番美しく見えるし、書きやすいのは考えれば当然のことですよね。理にかなっていて、かつ美しいものに惹かれてしまう私はこの結論(持論)に大満足。それからは一層、縦書きで書かれたものにも興味が向くようになりました。

筆文字は強弱が分かりやすく、書き手の心情がよく伝わってきます。スラスラ書いている様子は気持ちよさそうに思えるし、臨場感も見て取れるのでその場を想像してみたりするとまた楽しいです。達筆すぎて読めなかったり、意味が分からないことは多々ありますが、例えば、明智光秀が本能寺の変で織田信長を討った後、紀州の武将に送ったとみられる手紙なんかは、その心情や情景を思うだけで楽しいですよね。

明智光秀の書状=美濃加茂市民ミュージアム提供
明智光秀の書状

ちょっと話しがずれましたが、日本語の一番イイ表情を表す方法は、縦書きにあり、という大発見をしたよ!というお話でした。興味がある方は是非トライしてみてください。ノートは普通の大学ノートを縦にして使えば始めやすいと思います。私は一行だと細いので、2行の幅で書いています。ちょうど中心線も取れるしバランスがよいと思いますよ。いつかの目標としては筆文字の域まで達したいと思いますが、無理せず気長に日本語と付き合っていきたいなと思う今日この頃です。
さて、それでは今日はこれにて候。

日本最古の物語「竹取物語」。誰の文字かは分からなかったのですが、美しい。
竹取物語

国立国会図書館の「あの人の直筆」ウェブサイトは、近世からの色々な人の直筆が高解像度で見ることができて、とても面白いです!文豪や、幕末志士、絵師なんかもあったりします。

※今日のメイン画像は、野田市立図書館のウェブサイトに掲載されている『小倉百人一首「天智天皇と持統天皇」』のページ

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youseeaandiseeb
Written by youseeaandiseeb
東京在住のグラフィック&デジタルデザイナー。 ものづくり、文化芸術、旅、そしてたまに宇宙についてのブログです。 私の視点を通して、この豊かな世界を紹介していきたいと思います。英語でも書いてます。