「素敵な70代シリーズ」として、インゲヤード・ローマンさん(スウェーデンのデザイナー)、樹木希林さんを紹介してきました。
3人目の今回は、株式会社ドラフトの代表、宮田識さん。ドラフトは広告宣伝、販売促進の企画制作、CI、VIの企画制作、ブランドの開発を手がけるデザイン会社です。キリンの生茶、世界のキッチンから、ラコステ、モスバーガーなどが代表作。日本を代表するデザイン会社の社長さんのお話を聞く機会があり、とても勉強になったのでご紹介します。
「働くこと・生きること」そんなテーマのお話だったのですが、私が一番印象的だったのは「月を眺めるということ」についての宮田さんの考え方です。お話を聞いた日の前日が十五夜だったのでちょうど月のお話になりました。
「十五夜の月を眺める」言葉にすると大したことのない行為かもしれませんが、そこに至るためには意識することがあります。
まずは、十五夜がいつなのか知っているかということ。これは日常的に自然や月に意識を向けていないと入ってこない情報です。天気も気にしていないとならないし、それからもちろん十五夜を見るぞ!と決めること。いつなのかを知っていたとしても、当日忙しくしていたら見るチャンスを逃してしまいます。そんな小さな意識を持って初めて、2018年の十五夜を楽しむことができるのだと。
他にも例えば雨の日の捉え方。「あぁ、鬱陶しいな」と言って窓を閉めてしまうのか、それとも、しばらく雨の音に聞き入りその時間を楽しむのか。
起きている自然現象に対して、丁寧に心を寄せることが大切なんだよと、伝えてくださっているような気がしました。より実践的な仕事のお話もあったのですが、宮田さんの考えの根っこの部分がこれらのお話から伺えたので、もっとその考えを知りたいと思い著作を読んでみました。
『DRAFT 宮田識 仕事の流儀』という本です。宮田さんの「仕事に対する姿勢や考え方=仕事の流儀」をまとめた本です。
「何をしたくてこの仕事を選んだのか。その根っこを貫く勇気があるか」
「伸びるチャンスがいつか来る。そう信じてポジティブに仕事をしようや」
「ブランディングで最も大切なもの。それは作る人の気持ち」
「誰もが何かをデザインしている。そう考えると何かが変わる」
「今必要なのはビジネス全体をデザインし直す視点」
「消費者調査に振り回されていないか」
「信長も空海もクリエーティブディレクターだった」
「デザイナーは表現だけを考えてはいられない」
「良いデザインのために対等のパートナーになる」
などなどなどなど。
…いちデザイナーとしてビシビシと心に刺さる言葉のオンパレードです。デザインに対する覚悟と責任が前提としてあり、まだまだ甘い私は頭の下がる思いがしました。それから、メンターのように道を照らしてくれているような言葉も多くて自分を見つめ直すよい機会になり、また何度も読み返すような指南書に出会えた気がします。
中でも一番印象的だったのは以下の言葉。
「狭義のデザイン、広義のデザイン」
デザインというものは、狭義で捉えるか広義で捉えるかで大きく違うと思います。人によっても捉え方が全く違う。狭義のデザインは色や形、言葉、文字…。どうすれば美しく見えるか、伝わるかを考え、デザインをいわゆるスキルとして捉える。
一方、広義のデザインはスキルではなくて、例えば、人はどんな生き方が幸せなんだろうと考え、そのためにどんな社会がいいかを考えること。幸せな社会を作るには政治はこうならないといけないね、と。モノの色や形から入るのではなく、まず世界観があるんです。
自分にとってのデザインとは何か、という前提が違えば、何が成功で何が失敗かも違います。僕は、デザインを広義で考えたいタイプなんです。現実にはデザインを狭義で捉える人がまだ多いと思いますが、そのうちにデザインというものの捉え方が変わっていき、デザインは各論ではなく基本的には広義なんだ、もっと広く捉えていいんだ、という人が増えてきたらうれしいよね。そうするとデザイナーの役割も変わってくるだろうし。実際、今までのデザイナーの枠にとらわれない活動をする人が出てきていますよね。
この一文を読んだ時に、月を眺めることや雨の音を聞く意識についての宮田さんの考えに納得できたように感じました。私もデザインに携わっていくうちに、広義のデザインについてより興味が向くようになりました。成果物として目に見えるものの奥にある考えや姿勢、世界観、雰囲気などを読み取る力、また生み出す立場になった時にはそっちをより大切にしたいな、と。
デザイン思考、ブランディングなどのキーワードが認知され始めているのも、広義でのデザインの考えが定着し始めているからだと思うし、デザイナーの活躍の場が広がっているようで嬉しく思います。
それにしても、今でこそブランディングという言葉がありますが、言葉になる以前にブランドづくりを40年前からされている宮田さん。パートナーとしてお客さんの経営に近いところでずっと仕事をされています。関係づくりに始まり、徹底した商品理解、長年に渡るパートナーシップ。全ての工程において手を抜かず、人に対して、商品に対してとても丁寧で深い愛情を感じました。
そんな宮田さんのデザインに対する考えは以下のとおり。
良いデザインて何でしょうか。僕は社会に必要とされて、役に立ってこそ良いデザインだと思っています。世の中のあらゆるものにデザインは関わっている。デザイン無しに成立するものはありません。デザインという仕事はそれだけ大切なものです。
(公表前なので詳細は書けませんが)お話を聞かせて頂いた時に、本業以外の次の展開として準備中の事業について教えてくださいました。「こんな風になったらいいと思うんだ。どんな風になるかと思うと、今からとても楽しみなんだよ」と目をキラキラさせとっても楽しそうに話してくれたのですが、より広義でデザインを捉え、実現されている姿勢には本当に感銘を受けます。
現在70歳の宮田さんですが、本書では
僕の場合、40歳頃までは力が伸びなかった。50代で少しずついろいろなことがつながり始めて、やるべきことがシンプルに見えてきた。60代からですね、本当の成長は。「僕の本当の成長は60代からだった。あなたもきっと伸びる」
と、勇気が出る言葉を贈ってくれています。
私もまだまだこれから。がんばるぞ!
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さて、3人の先輩方に多くのインスピレーションを頂いた「素敵な70代シリーズ」はいかがだったでしょうか?
私の気づきが、また誰かの気づきや学びにつながるといいなと思います。
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