先日、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎、熊本両県)が世界文化遺産への登録が決められましたが、今日は世界自然遺産登録をされた「白神山地」についてです。
白神山地が世界自然遺産登録されて、今年で25周年とのことで、白神山地の現地案内人の方による特別講義が開かれるとのことで、「ブナの学校」に行ってきました。
白神山地と一口に行っても、その範囲は広くて、秋田県北西部と青森県南西部にまたがる約13万haに及ぶ広大な山地帯の総称だそうです。「ブナの学校」では、秋田県側からおひとり、青森県側からおひとりずつの案内人の方が講義をしてくださり、内容がとても素敵だったのでご紹介します。
まずは、白神山地の概要について。
白神山地は、秋田県と青森県にまたがる約130,000haに及ぶ広大な山岳地帯の総称です。うち原生的なブナ林で占められている区域16,971haが平成5年12月に世界自然遺産に登録されました。白神山地が世界自然遺産に登録された理由は、人為の影響をほとんど受けていない原生的なブナ林が世界最大級の規模で分布していることにあります。このブナ天然林には、ブナ、ミズナラ、サワグルミ等の落葉広葉樹が分布し、豊かな植生に恵まれ、遺産地域周辺を含む白神山地全域では、ツキノワグマ、カモシカ、ニホンザルなどの中・大型のほ乳類や、イヌワシ、クマタカなどの猛禽類、日本で最大の大きさのキツツキであるクマゲラなど貴重な鳥類も生息します。豊富な同植物群を有する白神山地全体は博物館的環境を呈しています。
(あきた白神・たびネットより)
秋田県側からの案内人は、秋田白神ガイド協会会長 斎藤栄作美さん
「マタギの祖父、木こりの父のもとに生まれ、藤里エリアの四季に精通する。白神山地の貴重な自然を守りながら、訪れた人に分かりやすくガイドをしてくれる。」青森県側からの案内人は、白神マタギ舎 小池幸雄さん
「神奈川生まれ、1988年に弘前大学に入学。探検部で白神山地に登りはじめ、マタギの伝統文化に魅了されて移住、白神山地世界遺産地域巡視員として夫婦で活躍中。」白神山地を知り尽くしたお二人のお話は、とても暖かくまた新しい視点を与えてくれるものでした。
まずは斎藤さんのお話で印象に残ったことをいくつか。
斎藤さんはおじいさんがマタギ(クマなどの大型獣を捕獲する技術と組織をもち、狩猟を生業としてきた人)、お父さんが木こりという生粋の「山の人」。白神山地は、何か派手で目立つような「いわゆる」の観光地ではなく、ブナ林が生茂る里山なので、世界自然遺産登録されたときは地元の人はとても驚いたんだそう。え、ここが?という感じで。裏山が世界遺産になっちゃったよー、みたいな感想だったとか 🙂地元の方たちのリアクションが物語るように、自然のままの手付かずの素朴な原生林が広がる場所だからこそ、世界遺産に登録されたのだと思うので、登録されたことでその原生林がそのまま残るように守られていくといいな、と思います。
斎藤さんは本当に白神山地のことが大好きで、ずっとニコニコして楽しそうに紹介してくれました。ブナ林のこと、四季の移ろい、そこで暮らす動物、秋に採れる山のご馳走…。とても時間が足りない様子でした。どのお話も素晴らしくてすぐに白神山地の虜になってしまったのですが、特に勉強になったことが3つありました。
1つめは、「ブロッコリー」
斎藤さんは白神山地のブナ林を「ブロッコリー」と表現します。遠目から見ると、ポコッポコと丸い緑の塊が生えているその風景がまるでブロッコリーのように見えるからだそう。そして、全体がバランスを保ちながらよい具合に同じ高さを保っているのは、例えば一本だけ飛ぶ抜けて高くなると風や雷にやられてしまうから。これも全て山が自然に形作る神秘です。2つめは、「冬のブナ林」
どの季節もそれぞれの表情があって素晴らしいけれども、冬のブナ林はまた特別で、自然の不思議を教えてくれたんだそう。全て葉っぱが落ちた冬のブナ林は枝だけが残ります。そんな時に見上げると、空間を上手に分け合いながら枝を伸ばしている木々に気づいたそうです。本当に見事に重なることなく、その空間を譲り合っているような様子に感動したそうです。3つめは、「彼ら」の「喜び」
斎藤さんは白神山地を、「彼ら」と言います。「彼らは自然と高さを保って調和をとっているんですよ」「彼らは上手にその空間を譲り合っているんですよ」と。そして、秋は「彼らの喜びの季節」だと。この世のものとは思えないくらいの美しさを発露した秋の白神山地は、彼らの喜びの表現なんですって。言葉の端々から白神山地への深い愛情と尊敬が伝わってきました。次は、青森県側からの案内人の小池さんのお話で印象に残ったものです。
1つめは、「伝える」
神奈川県出身で、青森の大学を選んだ理由は地方で雪がある場所がいいから、とのことでした。大学では探検部に所属していて、その時に知り合ったのがマタギの師匠。今では2人しかいないマタギの師匠の教えを後世に伝えなくてはならない、という思いで案内人としてご活躍されています。2つめは、「自然の恵」
手付かずの自然が豊かな里山では実りも豊かなんだそう。まずは水筒いらず。至る所に湧き水が湧いているので、のどが乾けばすぐに湧き水を飲むことできるんだそう。なので、お米を持っていけばお水はどこにでもあるから水筒はいらないそうです。手づかみで獲って焚き火で頂くイワナ。抱えきれないほどのキノコ類。山菜や大きなわさび。そしてご馳走の熊鍋。受講者たちからは「わーー!」という声があがる程、それぞれの季節の自然の恵を紹介してくれました。3つめは、「授かる」
マタギは熊を捕獲することが仕事ですが、小池さんは熊を「授かる」と表現します。決して自分たちが「獲る」のではなく、山から「授かる」。何度も「授かる」とおっしゃっていた姿がとても印象的で、白神山地への深い尊重の思い、それからマタギ文化を継承する人としての覚悟と誇りのようなものを感じました。こんな素敵なお二人のお話を聞いて、たちまち白神山地に魅了されてしまいました。いつかは行ってみたいなぁと思っていたのですが、これは近いうちに計画を立てないと!
どの瞬間も美しく、白神山地を愛するガイドさんもたくさんいますし、美味しいものもたくさん。是非行かれてはいかがでしょうか?
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