音になりたい
前回のブログでダンサーの森下真樹さんが、「音になりたい」と思って踊っているということを聞いて思い出した人がいるので、今日はその人についてです。
カナダ人のピアニスト、グレン・グールド。
名前は聞いたことはあったのですが、最近までよく知りませんでした。そして、私がグールドを知ったのは現代美術を勉強する学校でした。音楽に没入して、その人生はもちろん全てが芸術的だった人。
グレン・グールドを形容する言葉には、異才・奇才・天才などがありますが、演奏の評価に加えて人柄や私生活の行動などからもそのように言われたようです。
・トロント王立音楽院を最年少の14歳で卒業
・ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番第一楽章を演奏してコンサート・デビュー
・23歳の時にNYで録音した初アルバム、バッハの『ゴールドベルク変奏曲』が、1956年のクラシック・レコードの売上ベストワンを記録
・32歳の時に人気の絶頂で突然コンサート活動の中止を宣言し、スタジオにこもり、録音専門のピアニストとなって自己の芸術を高めていく
・極度の寒がり屋で、夏でも厚い上着の下に分厚いセーターを着込み、ヨレヨレのコート、マフラー、毛皮の帽子を身につけていた
・異常なまでに潔癖症
・絶対に水道水を飲まない
・非常に少食で、普段は少量のビスケットとフルーツジュース、サプリメント(ビタミン剤、抗生物質)等しか取らなかった
・専用椅子でなければ演奏を拒否
・バッハへの傾倒
そして、何よりもその演奏スタイル。
極端に猫背で前のめりの姿勢になり、椅子がキーキー音を立て、グールドはハミングし、そして空いた手で指揮もしちゃいます。
その姿は異様にも見えるのですが、その音と手の技巧の美しさと、没入しているグールドの姿に見入ってしまいます。音と曲とバッハとピアノと色々なものと一体化している姿は何だか神々しくもあります。何ですかね、このずっと見入って聞き入ってしまう魅力は。ゾーンに入っている超瞑想状態の人を見ると見ている方もある種の癒しの効果もあるような気がします。
「レコーディングによってコンサートの地獄のストレスから演奏家は解放される。演奏会の為に同じ曲ばかり練習するのではなく、新しい楽曲にどんどん挑戦してゆけるし、失敗を恐れずにありとあらゆる解釈を試せる」と言い放ち、ただひたすら曲と向き合う姿勢に感服します。
そして、グールドの最大の功績は、バッハ演奏における新たな演奏スタイルや解釈を世に示し、それに対応した確固たる到達点を構築したことであるといわれているそうです。グールド=バッハと言われる所以ですね。そして、その演奏と挑戦するスタイル、信念を貫き通す潔さなんかも含めて、クラシックではあるけれど、ロックのようでもあると評されたりもします。生粋なクラシック音楽ファンではない、例えば芸術好きな人からも人気がある理由もここにありそうです。
芸術に対しても考えがあったようで、「芸術の目的は、瞬間的なアドレナリンの解放ではなく、むしろ、驚嘆と静寂の精神状態を生涯かけて構築することにある」という言葉を残しています。そしてそして、そんなグールドの愛読書はトーマス・マンの「魔の山」と夏目漱石の「草枕」。漱石の本を多く所蔵していたグールドですが、「草枕」に関しては異なる訳の本を4冊持っており日本語版も所有していて、死の床にはたくさんの書き込みがされた「草枕」があったそうです。最後の15年は「草枕」にかなり影響を受けていたと言う学者もいるほどです。
思わぬ日本とのつながり。そして、グールドが多大な影響を受けたという「草枕」は読んでみないと!
ということで、没入するグールドはこちら。歌っています!
夏目漱石「草枕」
トーマス・マン「魔の山」
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