「砕ける波」「響き合う」と、音楽に関連した記事を書いてきたのですが、今回も音に関する素敵な映画についてです。
長編ドキュメンタリー 「うみやまあひだ 〜伊勢神宮の森から響くメッセージ〜」
日本人の心のふるさと、と形容される伊勢神宮。私も何度か訪れたことがありますが、澄んだ空気と豊かな森、その中にひっそりと佇むお社。自然と背筋がピンとなり敬虔な気持ちが湧き上がりますが、どこか優しく包み込んでくれるような安心感もあります。以前、伊勢神宮の宮司さんのお話を伺う機会があったのですが、宮司さんが「日本の神さまは、おばあちゃんのような感覚の存在です」と説明してくださったことがとても印象的で、伊勢神宮にもおばあちゃんの家のようなどこか懐かしさと安心感を感じるような思いがあります。この感覚が「日本人の心のふるさと」と言われる所以でしょうか。
それと、伊勢神宮が世界遺産ではない理由にもただただ納得しました。それは「遺産」ではなくて、現在も生き続けており、これからもずっとそう。言わば「永遠」の場所だからなんです。毎日「祭り」が行われていて、20年に一度の式年遷宮でお社が建て替えられます。命が続く永遠の場所が伊勢神宮。この映画のキーワードに「循環」が出てくるのですが、色々な側面で「循環」を表す場所なんだな、と改めて思いました。
さて、この映画には12人の方が登場し、伊勢神宮、日本の森、そして自然について言葉を寄せています。
・河合真如さん:伊勢神宮神職
・隈研吾さん:建築家
・小川三夫さん:宮大工棟梁
・北野武さん:映画監督
・倉田克彦さん:神宮司廳営林部
・池田聡寿さん:木材会社経営
・大野玄妙さん:法隆寺第129世住職
・田中克さん:京都大学名誉教授
・大橋力さん:脳科学者
・畠山重篤さん:牡蠣養殖業
・宮脇昭さん:横浜国立大学名誉教授
・成澤由浩さん:料理人
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– 「命の根」の「い」と「ね」がつまって「いね(稲)」となった
– 「その木が生きた分だけもたせろ」それが木への恩返し
– 200年後の遷宮のために豊かな森を育てる
– 失われてしまった鎮守の森。森は命、生存の基盤
– 1000年という時間を考えるときが来た
– 木の命が建物になって蘇っている、世界最古の木造建築、法隆寺
– アフリカの熱帯雨林の超高周波が多い、伊勢の森
– 自然がデザインしたところにつくられた伊勢神宮
– 根株に斧を入れ、命の繋がりを願う
– 美しいと感じる心の豊かさを、耳から聞こえない音がつかさどる
– 相思相愛の関係、鎮守の森と鎮守の海
– 命をいただくこと、森と生きること
こんな風に、各界の第一人者たちからの心にしみる言葉の数々が登場するので、どのお話も印象的なのですが、特に脳科学者の大橋さんと、木材会社を経営している池田さんは心に残っています。
超高周波は耳や鼓膜ではなく、「身体の表面」で感じる域なんだと大橋さんは教えてくださいます。木々のさやぎ、風が吹き抜ける音、滝や川の音などのベースの音と、鳥のさえずりや虫の美しい音、そんな私たちの耳に聞こえる音に加えて、耳には聞こえない超高周波領域の賑やかな森の音が合間って「森のオーケストラ」をなしているんだそうです。
数百年に渡って伊勢神宮に檜を納めている木曽の杣夫(そまふ)池田さんは、木は「泣いて寝る」と表現します。
※杣夫(そまふ)=山から木材を切り出す人
木曽では木を「伐り倒す」ではなく、木を「寝かす」と表現するんだそう。木が倒れていくとき「泣いて寝る」んだと。「コーン、コーン」と斧が木の芯に入っていき、最後の斧が入った時に「キイッ」と悲鳴のような声を出して倒れるからです。この時の様子は映画にも収められていて私も「あ、本当に泣いた!」と思いました。
映画では杣夫さんたちが木曽の木遣り歌を森の中で歌っているシーンもあるのですが、その佇まいが何ともかっこいい!
そして、写真家の宮澤正明さんが撮った映像が本当に素晴らしく、高解像度の4Kで撮影されているので、臨場感と映像の美しさは群を抜いています。ちなみに私は日本に3機しかないというスピーカーがある映画館で観ることができたので、映像も音も最高の環境で楽しむことができました。
(神楽シネマ)
…森に、山に、海に、自然に寄り添い、耳を傾け、共に生きている方々を知り、もっと広い視野で丁寧な視線でこの世界を見たいと思わせてくれた珠玉の映画です。
コンサートにしても、この映画にしても、最近は聴覚を意識するような出来事が多く音に関するブログが続きましたが、どうやら耳からの情報の方が脳への影響が大きいらしい、ということを聞いたということもあって「聴く」ことに意識を向けてみようかなと思います。
長編ドキュメンタリー 「うみやまあひだ 〜伊勢神宮の森から響くメッセージ〜」公式ウェブサイト
すでにブルーレイやDVDで販売もしていますが、各所で自主映画の上映もしているようで、映画館が近くにない方でも上映会の相談を受け付けているとのことなので、興味があるかたは是非。
※今日のメイン画像は映画のパンフレット。グラフィックデザインもとても素晴らしいです
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