今日は、2018.9.14 – 12.9まで東京国立近代美術館工芸館で行われている展示、スウェーデンを代表するデザイナー「インゲヤード・ローマン」についてです。
一般的には「デザイナー」「陶芸家」として知られている彼女ですが、「壺をつくる人」「形を与えるもの」として自身を認識しています。
陶芸家ではなく陶工と呼ぶのは、作家としての自己表現のためではなく、日常のための器をつくる職人的な立ち位置を自覚しているから。そして、「デザイナー」という言葉よりも、ある物に形を与え、今ここに在る状態にする役割として、形を与えるものであると言います。
私は、それまでは彼女の作品をよく見る機会がなかったのですが、事前情報なく作品を見て感じた正直な思いは、より純度が高いと思うので、今日はそんなスタイルで綴っていきたいと思います。
作品は、白と黒の陶器(ティー・サービス・セット)、様々な形のグラスや食器、ガラスでできた花瓶、ラタン(籐)のカゴなど、銀のお皿、カトラリーなど日常のシーンで登場する身近なもの。
まずは、白と黒の陶器について。
シンプルで無駄のないフォルム、でも冷たい印象ではなく、使う人のことを思った優しさが感じられ、更に洗練された印象があります。そして、白と黒のそれらはスウェーデンの冬の景色を思い出させます。一面に白が覆い、所どころ黒い木立が並んでいるような、白と黒しか存在しない静かな静かな世界。
そんな白と黒の静かなテーブルに、緑や赤、黄色の野菜が並べられることで一気に「生」が輝き出します。そのコントラストはとても美しく、使う人が食卓を囲む時の喜びや豊かさを想像しながら作品をつくっているんだろうな、と思いました。
次は、ガラス作品について。
彼女が自身を「Form-giver」と呼ぶ理由がとてもよく分かります。空気からすくい取ったような、空気とガラスの境界が分からなくなるような作品の数々。まるで空気に溶け込んでしまうかのようなそのフォルムはとても美しくて優雅。また、タイムレスと形容されるのは、人々に普遍的に備わっている自然の美しさに対する安心と尊敬を、彼女の作品に見出すからだと思います。
また、サイズが違うお皿が4重に重ねられて置かれている様は、作品名の”Pond(池)”のとおりで、静かな水面に波紋が広がるよう。そして、ライトアップされたグラスから伸びる影すらも、幾重にも広がる波紋のようで美しい景色を連想させてくれます。
ガラス作品には食器の他に花瓶も印象的でした。複雑なカットがされた花瓶はとても豪華。ライトの当たり方で表情が変わるので見ていて飽きません。更に、太陽光に当てられたらどう見えるんだろう、色とりどりの花を挿したときにはどんな表情に変わるんだろう、そんな風に想像力を掻き立ててくれるような作品です。
そして、美しい境界線を持つガラスの上に、シンプルな線の模様が描かれた花瓶もありました。こちらはとても繊細で優しい印象。細い線が織りなす模様は、一本一本が有機的で人の手の温もりが感じられます。
展示の多くは食器やグラス、カトラリー、花瓶なのですが、所どころでユニークな形の作品が登場するのも素敵でした。例えば、シルバーでできた茶匙は、木の葉をふたつにくるっと丸めたようなフォルムで、シンプルで可愛らしく、でも機能的でもあり、そこに緑の茶葉が乗せられた風景はまた美しい。そして、水滴を模したような白くて小さな陶器がいくつかテーブルに並べられている様子は、森に落ちているどんぐりのようでもあり、思わず笑みがこぼれるような楽しさと遊び心を感じます。
また、サイズとフォルムは同じだけれど、そのうちのいくつかは内側がゴールドの黒の陶器(小さな器)シリーズと、グラスの底面を小さな山のように盛り上がらせ、その小さな山の部分だけがゴールドのコニャック・バルーン・グラスからは、質の高い遊びと洗練を、そしてベトナムの籐を使ったカゴには、伝統とモダンを見事なバランスで組み合わせた趣の良さを感じました。
シンプル、タイムレス、厳粛、そんな言葉で形容される世界にいると気持ちが引き締まるような思いになるのですが、突然あらわれる意外性のある作品に惹き込まれ、またそこでは可愛らしさや遊びで心を緩めてくれる。そのバランスの妙が豊かさにつながり、彼女の作品の魅力となっているのではないかな、と思います。
作品自体はもちろん、ストーリー性がある展示方法もまた素晴らしいです。さらに、重要文化財に指定されている東京国立近代美術館工芸館の建物(1910年に近衛師団司令部庁舎として建てられた赤レンガ)と、皇居の隣ということもあって窓から見えるその景色と、そして小雨が降る静かな初秋ということもあって、作品を彩る全てがちょうどよく調和していて素晴らしい時間を過ごす事ができました。
—————
こんな風に「想像する自由」を与えてくれるインゲヤード・ローマンさん。とっても素敵な方の作品に出会えて幸せです。
私がこの展示を通して感じたことを率直に言葉にしてみました。
私のブログを通して彼女の作品に触れる方が増えるといいなと思います。
※多くの作品は撮影禁止なので、是非実物を見に足を運んでみてくださいね
—————
日本・スウェーデン外交関係樹立150周年 東京国立近代美術館工芸館ウェブサイト |
※今日のメイン画像はIKEA.comより
Leave a Comment