ブルーノ・タウト「熱海の家」- 2 –

前回はブルーノ・タウトについて紹介しましたが、今日は「熱海の家」(旧日向邸)についてです。

アジア貿易で活躍した日向利兵衛さんが依頼主。ちなみに、木造二階建ての母屋の設計は、東京銀座の和光、東京上野の東京国立博物館、 愛知県庁などの設計で知られる渡辺仁だと言うから、この日向さんは文化・芸術に詳しくてセンスがよい方だったんだと想像します。そして、「製作費用はいくらかかってもよいので、好きなようにつくってください」と言ってタウトに発注したとのこと。タウトを信用して全て任せ、金銭的な面でも制限がないだなんて、夢のようなプロジェクト。いいものを作るには依頼主の理解も必要だよね、なんて考えさせられもします。

この「熱海の家」は「別邸の地下室」と紹介されることも多いのですが、地下室という名の「社交場のための離れ」の方が実物を説明するのには合っている言葉だと思います。大きく分けて3つの部屋がありますし、真ん中の部屋には大きな窓があってそこから太平洋が一望できる、なんとも贅沢な「地下室」空間なのです。

旧日向邸

地下室なので、入り口は母屋からの階段になりますが、すでに入り口となる階段からタウトの世界が始まります。「ようこそ」と言っているようなアーチ型の竹格子が迎えてくれ、西洋を体験させてくれる小さな螺旋階段の演出があります。

入り口から最初の部屋は「社交室」。その名の通り、ビリヤードやダンスのためのものなので一番広いです。壁には細い竹が一面に敷き詰められいて、壁に竹垣があるようなイメージ。細い竹をまっすぐに敷き詰めることは高い技術力が必要なので、1日でできるのはわずか3本分くらいだったそう。そして、圧巻なのが天井の電灯。たくさんの裸電球が2列に吊るされているのですが、それぞれの裸電球を吊るす装飾も全て竹。今までに見たことのないものでとても素敵です。この部屋に置かれたテーブルと椅子もタウトデザインのものでした。シンプルだけど飽きのこない、そして温かみがあります。

旧日向邸

社交室を抜けると真ん中の部屋「客室」に入ります。大きな窓があって、空間は大きく上下段に別れています。上下段の間には5段の階段があり、座れるような幅のもの。そして美しい深い赤い色の壁。「色彩の建築家」とも呼ばれたタウトは、とてもユニークな色を建築に使う人でした。ガイドの方によるとこの赤は故郷のドイツを表現したんじゃないか、ということでした。
(完全予約制なのでボランティアガイドの方が、愛情を持ってとても丁寧に説明してくれるのです)

旧日向邸

この部屋の目的はその大きな窓から景色を楽しむこと。最上段には椅子が置かれているので、そこからの景色、それから5段の階段に座って眺める景色(5段全ての幅が違うのも演出です)、そして下段で寝転がったりしてみる景色、とそれぞれの高さで違った景色を楽しむことができる設計になっています。

太平洋を眺めることも素敵なのですが、本当の楽しみは夜。そう、月を愛でるために設計されたのです。このアイデアは桂離宮の月見台にインスピレーションを受けてデザインしたんだとか。なんとも贅沢な空間です。

(実際にガイドさんに言われた同じ言葉を拝借)
イメージしてください。今夜は満月のとても静かな夜。窓のすぐ下には海が広がり、まるで海に浮いているかのような体験をしています。太平洋の上には綺麗なお月様が顔を出しています。月明かりに照らされた深い赤色の壁が妖艶に反射し、貝殻の染料が塗られた天井は上品に控えめながらキラキラ輝いています。聞こえてくるのは静かな波音。

…はぁ、想像するだけでうっとりしちゃう。私は洋館や昔の建物も好きなのですが、こんな感じで「かつての生活」を想像することもまた楽しみのひとつであります。ちなみに、客室からの眺めは今は木が生い茂っていて遠くに海が見えますが、当時はもっと海を身近に感じることができたそうです。
※今日のブログのメイン画像は月明かりの客室をイメージして

そんなロマンチックな客室の奥には凛とした和室が控えています。「西洋人が見よう見まねで和室作っちゃいました」というのが嫌だったタウトは、本格的に勉強して表面的ではないものにしたかったんだそう。その意図が伝わるような、ちぐはぐではなくて落ち着きのある、でもどこか異国を感じさせるような素敵な空間になっています。数寄屋造に魅せられたタウトの愛情がつまっているようにも感じます。

三室三様のお部屋たちですが、壁紙の色もそれぞれテーマカラーがあり、タウトはまたそれぞれにテーマ(名前)も設けました。
・社交室 – 黄 – ベートーベン
・客室 – 赤 – モーツァルト
・和室 – 緑 – バッハ

これまた素敵なネーミング。ロマンチックな客室をモーツァルトとするところとか、何とも。。ここまで来ると、タウトという人は建築家というよりかは芸術家の印象が強くなってきます。日本の繊細さ緻密さに美を見出し、独自な手法で彼の世界を表現した素晴らしい空間。

2018年の後半から修復工事のため、4年間は公開中止とのことです。愛情たっぷりの熱海市のボランティアガイドの方の説明も楽しいので、是非足を運んでみてください。

<ブルーノ・タウト「熱海の家」 旧日向別邸へのアクセスと情報>
〒413-0005 静岡県熱海市春日町8-37(熱海駅より徒歩約10分)
土日祝のみ10:00・11:00・13:00・14:00・15:00(各回とも予約制)
大人300円・中高生200円・小学生無料(但し保護者同伴)
TEL. 0557-86-6232 (熱海市生涯学習課文化施設室)
※土日祝のみの開館となります。
※完全予約制のため、上記へご予約をお願いします。

熱海市観光協会ウェブサイト
https://www.ataminews.gr.jp/spot/116/

※メイン画像は旧日向邸のフライヤーより
※画像は熱海市観光協会公式観光サイトより

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Written by youseeaandiseeb
東京在住のグラフィック&デジタルデザイナー。 ものづくり、文化芸術、旅、そしてたまに宇宙についてのブログです。 私の視点を通して、この豊かな世界を紹介していきたいと思います。英語でも書いてます。